講義名 数学最先端特別講義K(Special lectures on current topics in Mathematics K)  科目コード:MTH.E641
開講学期 2Q 単位数 2--0--0
担当 濵口 雄史



【授業の目的(ねらい)、概要】
本講義の主要なテーマは、無限次元空間上のMarkov過程に関するエルゴ―ド性と確率Volterra方程式 (stochastic Volterra equation; SVE) のMarkovリフトへの応用である。 SVEは確率微分方程式の拡張であり、数理ファイナンスや統計物理学における「記憶効果」を持つ非Markov的な現象を記述するモデルとして注目されている。 しかし、その非Markov性ゆえに、解の長時間挙動の解析には従来のMarkov的手法を直接適用することは困難である。 これに対し、近年、SVEの解を無限次元Hilbert空間上のMarkov過程として捉え直す「Markovリフト」の手法が発展してきた。 本講義では、無限次元空間上のMarkov過程のエルゴ―ド性に関する一般論と、そのSVEのMarkovリフトへの具体的な適用手法を体系的に学ぶ。
本講義では、無限次元Markov過程のエルゴード性に関する強力な一般論として、Hairer–Mattingly–Scheutzow (2011) によるHarrisの定理の一般形を詳説する。 この定理は、時間遅れを持つ確率微分方程式やある種の確率偏微分方程式にも適用可能な極めて汎用性の高い道具立てである。 講義の後半では、SVEのMarkovリフトの枠組みを導入し、この一般化されたHarrisの定理を適用することで、不変確率測度の一意存在性および推移確率の弱収束性(弱エルゴード性)を導出する最新の研究成果を紹介する。

【到達目標】
・Harrisの定理の一般形の主張を理解すること
・確率Volterra方程式のMarkovリフトの考え方を理解すること
・確率Volterra方程式のMarkovリフトのエルゴ―ド性の証明を理解すること

【実務経験と講義内容との関連(又は実践的教育内容)】
担当教員は金融機関において数理を用いる実務と研究に携わってきた.
それらの経験から, 数学の理論が実社会での問題解決に本質的に活かされている実例を多く挙げる.

【キーワード】
Markov過程、不変確率測度、エルゴ―ド性、Harrisの定理、一般化カップリング、確率Volterra方程式、Markovリフト

【学生が身につける力】
専門力

【授業の進め方】
通常の講義形式で行う.また,適宜レポート課題を出す.

【授業計画・課題】

第1回 以下の内容を順に解説する予定である。
・確率Volterra方程式の導入と背景
・古典的なHarrisの定理とその一般形
・確率測度の一般化カップリング
・確率Volterra方程式のMarkovリフトの定式化とエルゴ―ド性


課題は講義中に指示する.

【教科書】
使用しない

【参考書、講義資料等】
・M. Hairer, J.C. Mattingly, and M. Scheutzow. Asymptotic coupling and a general form of Harris' theorem with applications to stochastic delay equations, Probab. Theory Related Fields, 149, 223--259, 2011.
・Y. Hamaguchi. Markovian lifting and asymptotic log-Harnack inequality for stochastic Volterra integral equations, Stochastic Process. Appl., 178, 104482, 2024.
・A. Kulik. Ergodic Behavior of Markov Processes: With Applications to Limit Theorems, Berlin, Boston: De Gruyter, 2018. https://doi.org/10.1515/9783110458930

【成績評価の方法及び基準】
レポート課題(100%)による.

【関連する科目】
MTH.C361 : 確率論
MTH.C507 : 解析学特論G1
MTH.C508 : 解析学特論H1

【履修の条件・注意事項】
無い