講義名 数学特別講義A第一(Special Lectures on Mathematics A I)
開講学期 前学期 単位数 2--0--0
担当 金井 雅彦 非常勤講師(東京大学大学院数理科学研究科 教授)
【講義の目的】
複比 (cross ratio) の歴史は二千年近く,あるはそれ以上と言われるほど古い.
にも関わらずそれに対する理解は不十分である.例えば,複比のまたの姿とも
とらえられるべきシュワルツ微分,パラケーラー構造,測地カレントが
誕生したのは,それぞれ18世紀後半,20世紀中盤,同後半である.
複比のみならずそれに後続するこれら諸概念に対しても,数々の目覚ましい応用を
通じてその有用性が極めて高く評価されている.それらも複比に秘められた力と
解釈されるべきものであろう.これらの発見が複比の長大な歴史と比して近年に
なされたことを考えれば,複比に対するわれわれの現時点での理解は不完全で,
その真価は未だ秘されたままであると考えるのは自然であろう.この講義においては,
複比とその「仲間達」に対する統一的な視点の獲得を目指す.
【講義計画】
以下の話題を取り扱いたいと考えている(ただし,時間の都合から一部は割愛せざるを
えないだろうが).
1.タイヒミューラー空間と測地カレント(Bonahon)
2.閉測地線の長さの分布と測地カレント(Otal)
3.パラケーラー構造と負曲率多様体の測地流(Kanai)
3.曲面群の円周への作用の局所剛性とシュワルツ微分(Ghys)
4.性質
(T)
を有する群の円周への作用(Navas)
5.SL(n+1,R)の格子の球面への作用の局所剛性と高次元シュワルツ微分(Kanai)
【教科書・参考書等】
なし
【関連科目・履修の条件等】
履修をするかどうかを考える際の参考に,キーワードを挙げておこう:
複比・シュワルツ微分・パラケーラー構造・測地カレント・タイヒミューラー空間・
負曲率リーマン多様体の測地流・群作用・性質 (T).
とくに履修に関し制約はない.
【成績評価】
レポートによる.
【担当教員から一言】
種々の問題に複比が姿を変えて登場し,活躍する様子を楽しんで頂けたらと願っている.