大学の解剖学教室で、人間をはじめて解剖した日、 いちばん印象に残ったのは、
解剖が終わって、教室を出た後の時でした。
目の前の階段を、ひとりの人が上っていました。
ぼくは何気なくその足を見ながら、自分も階段を上りました。
そのときです。ぼくは、大きな驚きに襲われました。
「生きている!」
目の前の人が、生きて、動いている。
そんな当たり前の事が、 とてすもなくスゴイことに思えました。
そのときのぼくの気持ちを、なにより子どもに伝えたいと思ったのです。
( pp. 49 -- 50 )

彫刻家のロダンは 「美とは、生きている感じである」 と言っています。
( p. 51 )

絵において、もっとも大切なのは、 生命感のある絵を描くことである。
「美とは、生きている感じである」を肝に銘じること。
生き物を描いたから生命感があるのではなく、
生物でも風景でも抽象画でも、 絵そのものに生命の気配があることが大切。

人生においても、もっとも大切なのは 「生きている」ことの実感である。
( p. 218 )


( 布施英利 『子どもに伝える美術解剖学』 ( ちくま文庫 ))