評価するということはそんなに単純なことだろうか。
筆者は、正しく研究を評価するということは、
共同体としての研究者集団 (たとえば数学者全体) の果たしているもっとも重要な機能であると考えている。
個々の発見は個人あるいは数人の共同研究者によって行われ、
たとえば数学者全体の集団が問題になることはない。
共同体の機能が現れるのは、発見が受け入れられ、 優れたものであるかどうか判断され、定着していく過程である。
一人一人が創造性をもった個人として発見に接し、 その中にある新しさ独創性を理解していく。
それらの努力が積み重なって、またお互いに影響を及ぼし合って、 全体の評価を作っていく。
その過程を通してのみ、発見に含まれる独創性は正しく評価されていく。


(深谷賢治『数学者の視点』(岩波科学ライブラリー35)、pp.40-41)