父は、
「弱い者を救う時には力を用いても良い」 とはっきり言いました。
ただし五つの禁じ手がある。
一つ、大きい者が小さい者をぶん殴っちゃいかん。
二つ、大勢で一人をやっつけちゃいかん。
三つ、男が女をぶん殴っちゃいかん。
四つ、武器を手にしてはいかん。
五つ、相手が泣いたり謝ったりしたら、すぐにやめなくてはいかん。
「この五つは絶対に守れ」 と言われました。

しかも、父の教えが非常に良かったと思うのは、
「それには何の理由もない」 と認めていたことです。
「卑怯だから」 でおしまいです。


( 藤原正彦 『国家の品格』 ( 新潮新書 ) p. 127 )