ボストンのシンフォニー・ホールでグレン・グールドのピアノ協奏曲の演奏を聴いた。
曲目はバッハのチェンバロ協奏曲とR.シュトラウスのバレスク。
ピアノの上に水差しとコップが置いてあり、
譜面台ははずしてあったが、楽譜が置いてあった。
グールドは演奏中ピアノ・パートが閑になるとコップに水を注いで飲んだり、
オーケストラに向かって指揮する真似をしたり、
楽譜をめくって眺めてたりしてみせたが、
肝心のピアノの音は小さかった。
バッハはともかく、シュトラウスのバレスクは音量不足で迫力に欠けていた。
グールドが後に演奏会で弾かなくなった理由の一つは 音が小さかったことではなかったかと思う。


( 小平邦彦 『ボクは算数しか出来なかった』 (日経サイエンス社 所収 「娘の音楽」 pp. 136 -- 137 )