E.T. ベル『数学をつくった人びと』(東京図書)

(「序論」より)


… まず強調したいのは、この本が数学史として、 あるいは数学史の一部として書かれたものでは全然ないということである。

ここに紹介した数学者の生涯は、 一般読者や、現代数学をつくりだした人間とは どんな人間なのかを知りたいと思う人びとを対象に書かれたものである。 私の目的は、今日の数学の広大な領域を支配している いくつかの主流をなす考え方へ (読者を) 導くこと、 しかもそれらの考え方をつくりだした人びとの生涯を語ることを通じて 導くことにある。

とりあげる人物を選択するにあたっては、二つの基準をおいた。 一つは、現代数学に対してもつその人物の業績の重要性であり、 第二は、その生涯と性格の人間的魅力である。 ある人物は両方の基準にあてはまる。 たとえばパスカル、アーベル、ガロアなどである。 またガウスやケイリーのような人物は、 興味ある生涯をおくったにしても、 おもに第一の基準にあてはまる。 特定の功績があり、記念されるべき候補者が複数あって、 二つの基準が衝突したり重複したりするときには、 第二の基準に重点をおいたが、 それは、私がこの本では、 なによりも人間としての数学者に興味を抱いているからである。