佐藤文広著『数学ビギナーズマニュアル』(日本評論社)

( 「はじめに」より )

この本では、大学で新たに数学を学び始めるみなさんに、 講義ではあらたまって教わる機会はほとんど無いけれども、 数学を勉強していく際にぜひ知っておいて欲しいことについて、 お話ししていこうと思います。 それらの多くは、数学業界に特有の雰囲気であったり、 特殊な習慣や業界用語であったりするものです。

数学に日々ひたって暮らしている数学者は、 こうした習慣に慣れきってしまっているためにその特殊性に気付くことは少なく、 あらためて説明をすることを忘れてしまいがちです。 大学の数学と高校までの数学との間には大きなギャップがあるとは よく言われることですが、 このようなことも原因の一つになっているような気がします。

この『ビギナーズマニュアル』の狙いは、 ちょっとした業界用語を知らなかったために思わぬ苦労を してしまうようなつまらないことを減らし、 数学本来の難しさや面白さの部分でみなさんに努力してもらえる ようにしたいということです。 いくら特殊に感じられる習慣や用語でも、それなりの理由があり、 それなりの歴史を背負ってのことなのだ、 ということもできる限りお伝えしていきたいと思います。

これから数学の世界を旅するみなさんにとって、数学の教科書は、 解析学・幾何学・代数学・整数論・確率論… などの観光地へと案内してくれるガイドブックです。 それに対して『ビギナーズマニュアル』は、 荷物のパッキングの仕方や持っていくと便利な小物、 関税の通り方など、上手な旅のコツをつめこんだ便利帳なのです。

では、出発する前に、 これから学ぼうとしている数学の現状はどのようになっているのか、 その概観をお話ししておきましょう。

...