卒業研究について

 

卒業研究では,複素解析学のテキストを中心に輪講を行います.テキストはあらかじめ指定する場合が多いですが,学生諸君の希望があればそれに合わせることもあります.

 卒業研究は,いわゆるセミナー形式で,教員と発表する学生が One on One で数時間対峙します.その中で学生が理解を深めたり,論理力,プレゼンテーションする力を鍛えたりします.時には厳しい場面もあるかもしれませんが,もし,自分が本当に理解をしているならば,そのことを披露するのは楽しいことでもありますし,セミナーでの討論を通してさらに理解が進むと,勉学意欲も高まって,「数学をしている」気分になります.もしかしたら,大学院に進んでもう少し数学を極めてみたいと思うようになるかもしれません.


ここで卒業研究についての,私の基本的考え方を述べておきます.

卒業研究は通常3年間の学習の後,行うものです.したがって,大学で学んだ数学についての集大成的な性格を持っていますし,私もそれを期待します.ですから,使用するテキストも一定の水準・目的を持ったものを採用します.

 どうしてこのことをわざわざ述べるかと言うと,「卒業研究」を,諸君の学力の程度を慮って,もう少し直接的にいうと,学力の低い学生に対しては,例えば1年生程度の数学の再確認(または再履修)を行なうのがよいという考え方あるからです.私はこの考え方には賛同しません.

 そもそも,東工大の数学科においては卒業研究の資格を得たということは,その学生は2,3年生での基礎的な科目については受講・合格しているということです.もっとも,「合格」したのだから,その科目について理解しているはずであるとは限りません.しかし,そのような一定の「資格」を持った学生に,卒業研究で「1年生程度の数学の再確認」をさせることが適切であるとは思いません.また,学生にもそのようなことが「大学で学んだ数学についての集大成」と思って欲しくないと考えます.もう少し言えば,大学で学んだことの自分なりの集大成として,(ひょっとしたら楽かもしれないが)そのような志の低い道を選んでほしくないと思います.


 学生諸君の学力は千差万別であることは十分認識しています.冒頭「テキストも一定の水準・目的を持ったものを採用」と宣言しましたが,これは「テキストは完読すれば,一定の水準を持ったもので現代数学に通じる目標があるものを採用」という意味です.敷居は低いけれどもそれなりのポリシーがあり,数学的に面白いテキストは数多くあります.そのようなテキストと諸君の自主的な向上心を持って臨めば達成感のある卒業研究がなされると考えています.


 少し固い話を書き並べましたが,冒頭にも述べたように卒業研究は,これまでの講義を聴くというスタイルとは全く違ったものです.学生諸君の活動が主役になっています.したがって,これまで講義ではよく理解出来なかったことがらも理解出来る可能性があります.とにかく,自分で積極的に,


高い授業料の元を取るぐらいの気持ち


で臨んでほしいと思います.


 参考のため,テキストの候補となるべき文献を挙げておきます.これらの中には実際に使用したものもあります.


    * A. F. Beardon, Iteration of Rational Functions, Springer GTM 132, 1991.

    * H. M. Farkas and I. Kra, Riemann Surafeces, Springer GTM 71, 1980.

    * W. Rudin, Real and Complex Analysis, McGRAW-HILLS, 1966.

    * W. Rudin, Function Theory in the Unit Ball of Cn, Springer, 1980.

    * W. K. Hayman and P. B. Kennedy, Subharmonic Functions I, Academic Press.

    * 志賀啓成,複素解析学 II,培風館,1998.

    * 山口博史,複素関数,朝倉書店,2003.

    * C. Tricot, Curves and Fractal Dimension, Springer, 1995.

    * R. Narasimhan, Complex Analysis in One Variable, Birkh\"auser, 1985.