講義名 数学特殊講義L(Special courses on advanced topics in Mathematics L)  科目コード:ZUA.E346
開講学期 4Q 単位数 2--0--0
担当 宮本 安人 東京大学大学院数理科学研究科准教授


【講義題目】
反応拡散系の安定パターンとホットスポット予想


【講義の概要とねらい】
 この講義では,反応拡散方程式(または反応拡散系)と呼ばれる半線形放物型偏微分方程式の定常問題として現れる,半線形楕円型偏微分方程式の解の形状と解の安定性について考える.例えば,シマウマの縞模様や巻貝の模様や流体の対流(の方程式を簡単化したもの)などが,この方程式(系)で記述されることが知られている.反応拡散方程式は,20世紀前半から現在まで,長い研究の歴史がある.この方程式は時間発展方程式であるが,その研究の第一歩として,定常解(時間に依らない定常状態)を求めたい.反応拡散方程式は,物理学や化学や生物学において現れるモデル方程式という側面が強いため,定常解の中でも物理的に実現可能である安定定常解が興味ある対象となる.そこで,非自明な安定定常解が存在するのか?,存在するとすれば,領域や非線形項や解の形状と,どのような関係があるのか?などについて考察する.特に,連立半線形楕円型方程式については解析が困難であるため,シャドー系と呼ばれる近似方程式系を導入する.シャドー系における安定定常解の形状を探る問題が,「ホットスポット予想」と呼ばれる熱方程式に関する有名な未解決問題と密接に関連することを解説し,非線形解析の手法を用いて,条件付きではあるが証明を与える.さらに,この予想を一般化した,「非線形ホットスポット予想」を,特殊な領域の場合について証明し,この方面の今後の課題について解説する.
 反応拡散方程式系の定常解とその安定性について考察する過程で,抽象的な関数解析の様々な定理が,具体的な問題にいかに応用され便利な道具であるかを実感することになるであろう.

【到達目標】
・与えられた反応拡散方程式または反応拡散系が,どのようなタイプ(協調系,競争系,活性化因子・抑制因子系)になるかを判定できるようになること
・与えられた非線形方程式に対して,線形化固有値問題を導けるようになること
・固有値に関する基本的な性質を挙げられ,使いこなせるようになること
・固有関数の零等高線の満たす性質を挙げられ,使いこなせるようになること
・非線形ホットスポット予想のステートメントをかけるようになること

【キーワード】
放物型偏微分方程式,楕円型偏微分方程式,反応拡散系,シャドー系,解の安定性,解の形状,線形化固有値問題,ホットスポット予想,非線形ホットスポット予想

【学生が身につける力】
専門力

【授業の進め方】
通常の講義形式で行う。最終回にレポート課題を出す.

【授業計画・課題】

第1回 反応拡散方程式(または反応拡散系)の具体例を挙げ,先行結果を振り返り,方程式の「型」と挙動がどのように対応するかを概観する.凸領域におけるNeumann境界条件下における単独反応拡散方程式の安定定常解は定数定常解に限ることを証明する.反応拡散系の場合は,系がある種の構造を持つ場合に,同種の定理が成り立つことを見る.この構造を持たない場合は,凸領域であっても非定数安定定常解を持つことが期待されるが,実際に活性化因子・抑制因子系と呼ばれる系についてはそのことが成り立つことを示す.さらに,その簡単化した系(シャドー系)を導入し,安定解の形状について考察する.さらにそこで用いられた手法を応用し,2次元凸のある領域のクラスについて,ホットスポット予想を肯定的に解決する.


課題は講義中に指示する

【教科書】
使用しない

【参考書、講義資料等】
なし

【成績評価の基準及び方法】
レポート課題 (100%) による。

【関連する科目】
MTH.C351 : 函数解析

【履修の条件(知識・技能・履修科目等)】
なし